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ところが息子は婚姻の寝室に入ったとき、倒れて死んでしまったのです。
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2 |
私たちは皆、明かりを消しました。町の人々は皆、私を慰めに来てくれました。私は、次の日の夜まで気持を抑えていました。
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3 |
しかし、私を落ち着かせようと慰めてくれた人々が皆寝静まったので、私は夜起きて、御覧のとおり、この野原に逃げ出して来たのです。
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4 |
もう町には帰らず、ここにとどまっていようと思います。食べることも飲むこともしません。死ぬまで絶えず嘆き続けて断食をするつもりです。」
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5 |
わたしは、ここまで話を聞いて、それを遮り、怒って彼女に答えた。
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「愚か者、あなたは女の中で最も愚かだ。あなたにはわたしたちの嘆きや、わたしたちに起こったことが見えないのか。
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7 |
わたしたち皆の母シオンは悲しみに打ちひしがれ、ひどく卑しめられているのだ。このため大いに嘆きなさい。
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8 |
わたしたち皆の嘆きと悲しみを共にして、あなたも嘆くべきだ。ところがあなたは、たった一人の息子のために悲しんでいる。
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9 |
大地に尋ねてみよ。そうすれば大地は言うだろう。『生まれて来るこれほど多くの者たちのために嘆かなければならないのは自分なのだ』と。
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10 |
初めからすべての者は大地から生じ、これからも更に生ずるであろう。しかし、見よ、ほとんどすべての者は、滅びに向かって歩み、多くの者が滅びる。
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11 |
そうすると、どちらの方が深く悲しまねばならないのだろうか。一人のために嘆いているあなたよりも、このように多くの人々を失った大地ではないのか。あなたは言うであろう。
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12 |
『わたしの悲しみは大地のとは違います。わたしは自分の胎の実を失ったのです。わたしは、陣痛の中で、もだえ苦しみながら産んだ子を失ったのです。
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13 |
大地は大地の法則に従っただけのことです。大地の多くの人々は、来たときのように行ってしまったのです』と。しかし、それならわたしは言おう。
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14 |
あなたが苦しみながら子を産んだように、大地もそのようにして、初めからその実である人間を、大地の創造者のために産んだのだ。
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15 |
それゆえ今、あなたの嘆きを自分の中に納めて、あなたにふりかかった災いを力強く受け止めなさい。
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16 |
もしあなたが、神の定めを正しいと認めるなら、やがて時が来て再び子を与えられ、あなたは女の中でたたえられることになるだろう。
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17 |
さあ、町へ戻り、夫のもとに帰りなさい。」女は言った。
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「いいえ。町には戻らず、ここで死にます。」
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わたしは更に言った。
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「そんなことを言うものではない。シオンの失墜がどのようなものであるか、わたしの言うことを聞き分け、エルサレムの痛みを思って自分の慰めとしなさい。
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21 |
あなたも見ているように、わたしたちの至聖所は荒らされ、祭壇は打ち壊され、神殿は破壊された。
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22 |
わたしたちの竪琴の音は消え、賛美の歌はやみ、わたしたちの喜びはなくなった。燭台の明かりは消され、契約の箱は奪われ、聖なる器は汚された。わたしたちに授けられた名も全く冒瀆され、わたしたちの指導者たちは侮辱を受け、祭司は焼き殺され、レビ人は捕虜として連れ去られた。おとめたちは汚され、わたしたちの妻は暴行を受け、義人たちは連れ去られ、幼子は捨てられ、若者は奴隷になり、力のある者たちは弱くなった。
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23 |
そして最悪なのは、シオンの証印のことである。神の印を押されていたシオンのかつての栄光は取り消され、わたしたちを憎む者どもの手に渡されたのだ。
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24 |
それゆえ、あなたは自分自身の大きな悲しみを振り払い、多くの苦悩を捨て去りなさい。そうすれば、力ある方が再びあなたを憐れみ、いと高き方があなたに安らぎを与えて、苦労をねぎらってくださる。」
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25 |
わたしが女に話していたとき、驚いたことに、突然彼女の顔が強烈な光を放ち、その姿は稲妻のようにひらめいた。わたしは彼女に対して恐れを抱き、これはいったいどういうことなのだろうと思った。
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26 |
すると突然女は恐ろしい大きな声をとどろかせた。大地がその音で揺れ動いたほどだった。わたしは目を上げた。
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27 |
すると、どうしたことだろう、もう女の姿は見えず、そこには都が建てられつつあり、大きな土台が見えた。わたしは恐ろしくなり、大声で叫んで言った。
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28 |
「初めにわたしのところに来られた天使ウリエルは、どこにおられますか。あの方が、わたしの心をこんなに耐え難いほどに乱されたのですから。わたしの望みは打ち砕かれ、わたしの祈りはかえってむなしくなりました。」
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29 |
わたしがこのように言っていると、見よ、初めにわたしのところに来た天使がやって来て、わたしを見た。
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30 |
そのときわたしは死人のように横たわっており、考える力がなくなっていた。天使はわたしの右手を取り、わたしを力づけ、立ち上がらせて言った。
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31 |
「どうしたというのだ。なぜ取り乱しているのか。なぜ知性も心の思いも乱しているのか。」わたしは言った。
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32 |
「あなたがわたしのことを見捨てられたからです。わたしは実際、あなたの言われたとおりに野原に出ました。すると、どうでしょう。何とも言いようのないものをわたしは見たのです。いや、今も見ているのです。」天使は言った。
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33 |
「男らしく立ちなさい。教えてあげよう。」わたしは言った。
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「主よ、お話しください。わたしが無益に死ぬことのないように、わたしを見捨てることだけはしないでください。
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わたしは未知のことを見、未知のことを聞いているのですから。
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それとも、わたしの心が欺かれ、わたしの魂が夢を見ているのでしょうか。
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どうかお願いします。僕にこの幻を解き明かしてください。」
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天使は答えた。「よく聞きなさい。あなたが恐れているものについて説明しよう。いと高き方はあなたに多くの奥義を示されたのだ。
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いと高き方はあなたがまっすぐに歩んでいるのを御覧になった。あなたが絶えず民のために悲しみ、シオンのために大いに嘆いたからである。
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幻の意味はこうである。少し前にあなたに現れた女のことであるが、
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あなたは、その女が泣いているのを見て、慰めようとした。
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しかし女の姿は今はもう見えず、建設中の都が現れた。
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彼女は息子の身に起こった不幸についてあなたに話したが、その解き明かしはこうである。
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すなわち、あなたが見たあの女はシオンであり、あなたが今眺めているのは都として建てられたシオンの姿である。
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女は三十年の間うまずめだったと、あなたに言ったが、これはシオンにまだ犠牲が献げられていなかった期間が三千年間あったということである。
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それから三年後にソロモンは都を建て、犠牲を献げた。うまずめが子を産んだというのは、この時のことである。
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女が息子を苦労して育てたと言ったのは、エルサレムに人が住んでいたときのことである。
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女は、息子が婚姻の寝室に入ったときに死んで、自分に災難が襲ったことを語ったが、これは、エルサレムの滅亡のことである。
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さあ、あなたは、シオンがその子のことをどんなに嘆いているかというたとえを見て、起こったことについて彼女を慰めようとしたのである。これがあなたに明らかにされねばならなかったことである。
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50 |
今、いと高き方は、あなたがシオンのために心から悲しみ、心の底から苦しんでいるのを御覧になって、あなたにシオンの輝かしい栄光と、端麗な美しさを示されたのである。
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51 |
家の建てられたことのない野原にとどまるようにと、わたしが言ったのはこのためである。
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わたしは、いと高き方があなたにこれを示そうとされていたことを知っていた。
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だからこそ、わたしはあなたに、建物の土台のない野原に来るよう言ったのである。
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いと高き方の都が示されようとしている所には、人間の手になる建物があってはならないからである。
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それゆえ恐れてはならない。心を騒がしてはならない。それよりも、建物の中に入って、あなたの目で見ることができるかぎり、その輝かしく壮大なる様を眺めなさい。
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その後で、あなたは耳で聞くことができるかぎりのことを聞きなさい。
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あなたは多くの人よりも幸いである。あなたはいと高き方のもとに呼ばれているが、これはごくわずかの人にしかないことである。
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明日の夜まで、ここにとどまっていなさい。
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そうすればいと高き方は、終わりの時に地上に住む人々になさろうとしていることを、夢の中の幻であなたに示されるであろう。」
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60 |
わたしは言われたとおり、その夜も次の夜もそこで眠った。
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