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航海に出て荒波を越え行こうとする人は、自分を運ぶ船よりももろい船首の木の像に助けを求める。
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2 |
利益を求める人間の欲望が船を考え出し、船大工の知恵がそれを造った。
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3 |
しかし父よ、船を導くのはあなたの摂理。あなたは海の中にも道を設け、波の中にも安全な小道を造られた。
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4 |
人をあらゆる危険から救う力のあることをあなたは示されたので、航海の技術のない者でも船に乗れる。
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5 |
あなたは知恵の働きのやむことを望まれない。そのため人は極めて小さな船板にさえも命を託し、木の舟で波を乗り越えて無事に航海ができた。
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6 |
その昔、高慢な巨人たちが滅びたとき、世の希望であったあの人は木の舟で難を逃れ、御手に導かれ、後に続く世代の種を世に残した。
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7 |
義を実現させたその木は祝福される。
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8 |
しかし人の手で造られた偶像は、その作者と共に呪われる。作者はそれを造ったからであり、偶像は朽ちるものなのに神と呼ばれたからである。
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9 |
神は不信仰な人も、その不信仰な行為をも同じく憎まれる。
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10 |
造られた物も造った人も共に罰を受ける。
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11 |
そのため諸国の民の偶像にも裁きが下る。偶像は、被造物の中で忌むべきものとなり、人の魂にとっては罪のもと、愚か者の足にとっては罠となったからである。
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12 |
偶像を考えつくことから姦淫が始まり、偶像を造り出すことによって生活が堕落する。
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偶像は初めからあったものではなく、いつまでも続くものでもない。
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それは人間の虚栄によって世に入って来た。だから速やかに滅びるように定められている。
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息子の予期せぬ若死にに打ちのめされた父親が、あまりにも早く取り去られたわが子の肖像を造り、死んでしまった人間を今や神としてあがめ、家の者たちに儀式や犠牲を義務づけた。
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16 |
時とともに神を汚すしきたりが力を得、法として守られるようになった。こうして、刻まれた像が支配者たちの命令で礼拝されるようになり、
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17 |
遠くに住んでいるために、直接支配者たちを見て敬うことのできない人々は、離れたところにいる彼らの姿を表すために、尊敬すべき王に生き写しの肖像を造り上げた。その場にいない者を、あたかもいるかのように熱心にへつらいあがめるためである。
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18 |
偶像造りの野心は、王を知らない人々をも駆り立てて、偶像崇拝を広めさせた。
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19 |
彼は権力者に取り入るため、腕を振るって肖像を実際よりも美しいものに造り上げた。
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20 |
多くの人は職人の見事なわざに引かれ、先程まで人間として敬っていた者を、今や、礼拝の対象と見なすようになった。
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21 |
このことは人の生涯にとって罠となった。災難や権力に支配された人々が、神聖な名を石や木に与えたから。
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22 |
彼らは神を知る点で間違っただけではない。無知から生じた大きな戦いのうちに生きながら、次のようなひどい悪事を平和と呼んでいる。
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23 |
彼らは幼児殺しの犠牲や密儀、奇怪なしぐさを伴うみだらな酒宴を行う。
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24 |
生活も結婚も清くは保たず、裏切って殺し合い、姦淫を犯しては苦しめ合う。
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25 |
流血と殺害、盗みと偽りが至るところにあり、堕落、不信、騒動、偽証、
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26 |
善人への迫害、恩恵の忘却、魂の汚染、性の倒錯、結婚の乱れ、姦淫、好色が至るところにある。
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27 |
実体のない偶像を礼拝することは、諸悪の始まりと源、そして結末である。
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28 |
彼らは快楽に狂い、偽りの預言をし、不正な生活を送って、軽々しく偽証する。
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彼らは魂のない偶像に依り頼み、不当な誓いをしても罰せられるとは思わない。
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30 |
二とおりの罪のゆえに神は彼らを裁かれる。まず、偶像に依存して神のことを悪く考え、次いで、神の清さをさげすみ、不当にも偽って誓ったからである。
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31 |
彼らが誓ったその神々の力ではなく、罪人に対する神の罰こそが、悪人の犯す過ちを常に懲らしめ続けるのである。
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